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佐賀地方裁判所 昭和39年(ワ)276号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「一、佐賀地方裁判所昭和三九年(ケ)第一八号競売申立並に強制競売申立事件の支払表につき、支払順位第二の被告に対する支払額金一三六万一、二五二円の部分を取消し、支払順位第三の原告に対する支払額を金四〇万九、六五〇円と支払順位第四の原告に対する支払額を金九八万〇〇〇三円と、夫々更正する。

二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、原告は訴外成松正雄に対し、(1)債権元本額三〇万円、弁済期昭和二八年一二月末日、利息日歩二銭、期限后の損害金日歩五銭の債権と、(2)債権元本額一〇〇万円及びこれに対する昭和三四年一二月一五日より完済に至るまで年五分の割合による損害金の債権とを有し、右(1)の債権については右訴外人の所有に係る別紙第一記載の不動産(以下本件不動産と略称する)について抵当権を有し、それは佐賀地方法務局昭和二七年一二月二四日受附第五、三八〇号を以て抵当権設定登記ずみである。二、被告は訴外日本農林株式会社に対し元金一〇五万三、六〇一円の債権を有するが、右は日本農林株式会社が、国より昭和二五年一〇月二七日金一五〇万円を、元金弁済期、昭和二七年五月三〇日金五〇万円以上、同年一一月三〇日金五〇万円以上、昭和二八年五月三一日残額全部を夫々支払うとの約定で借用したその残であつて、これを昭和二七年一〇月一九日、訴外日本開発銀行が承継し、更に昭和二九年一月二三日被告においてこれを承継したものであり、これについては本件不動産につき佐賀地方法務局昭和二六年一〇月一九日受附第五、一二八号を以て抵当権設定の仮登記がなされている。

三、原告は本件不動産につき前示一の(1)の債権を以て昭和三九年四月七日競売を申立て(佐賀地方裁判所昭和三九年(ケ)第一八号)また、(2)の債権を以て同年同月一四日強制競売を申立てた。(佐賀地方裁判所昭和三九年(ヌ)第九号)。競売事件は進行して、同年一〇月一日本件不動産は一四一万二、〇〇〇円を以て競落され、別紙第二のような支払表が作成された。

四、しかしながら右支払表における順位第二の被告の前示債権は商事債権であり、元金弁済期の最終日たる昭和二八年五月三一日又は被告が右債権を承継取得した昭和二九年一月二三日より五年の経過を以て消滅時効が完成し右債権は既に消滅しているから被告は本競売事件の配当にあたつて仮登記抵当権者として配当額を供託うける地位にはないものである。

五、仮に原告は後順位配当権者に過ぎないから時効を援用し得る地位にないものとするならば、前記のように成松は日本農林株式会社の被告に対する債務につき物上保証人であり、物上保証人は主たる債務の時効消滅を援用し得るから成松の債権者である原告は成松に代位して成松の時効消滅援用権を行使する。よつて前示支払表を請求趣旨記載のとおり更正しこれに基く配当を受けるため本異議の訴に及ぶと述べた。

立証(省略)

被告は適式の呼出を受けながら本件各口頭弁論期日に出頭しない、よつてその提出に係る答弁書を陳述したものと看做すべく、右書面に依れば主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の訴外日本農林株式会社の被告に対する債務が時効により消滅したとの点は争う、仮に右主債務が消滅時効にかかつていたとしても物上保証人である訴外成松正雄には右時効の援用権がない、また仮に援用権があるとしても当時既に時効の利益を放棄しているのでいずれの理由からしても原告の請求は失当であるというにあり、甲号各証については認否しなかつた。

理由

原告主張の一ないし三の事実は被告において明かに争わないからこれを自白したものと看做すべく、右の事実に徴すると、被告の訴外日本農林株式会社に対する元金一〇五万三、六〇一円の債権は商事債権として消滅時効期間五年であること原告主張のとおりであり、被告において時効中断につき何ら主張立証することなく、また時効利益の放棄についても何ら立証することのない本件においては右債権の元金弁済期の最終日たる昭和二八年五月三一日より、また遅くとも被告が右債権を訴外日本開発銀行より取得した昭和二九年一月二三日より五年の経過を以て消滅時効完成したものといわなければならない。

しかしながら、右時効の援用権を有する「当事者」とは当該債権の債務者、連帯債務者、保証人等時効を援用するについて直接の利益を有する者に限られるものと解すべきところ、本件配当異議の訴において原告は債権者として他の債権者たる被告の債権の時効を援用することにより間接に利益を受けるものに過ぎないから右の援用権者に該当せず、また訴外成松正雄も抵当権を設定した物上保証人として時効の援用により間接に抵当権の行使を免かれ利益を受けるものに過ぎないから抵当債権の消滅時効援用権を有しないものというべく、従つて右成松の債権者たる原告においてその主張の債権者代位によつて右時効援用権を行使するに由ないものである。そうだとすると、被告は依然として仮登記抵当権者として本件競売事件の配当にあたつて配当額を供託受ける地位にあるから、既に作成された別紙第二の支払表につき何ら変更を加うべき理由は存しない。よつてこれが更正を求める原告の本訴はこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(別紙第一)

佐賀市水ケ江町字水ケ江小路一三三番一

一、宅地  一一二坪

同所同番地

家屋番号同町大崎四八番

一、木造瓦葺平家建居宅一棟

建坪  二七坪

(別紙第二) 支払表

〈省略〉

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